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* 富山の薬売りに学ぶ事業スピリット(第2回) *


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【 富山の薬売りに学ぶ事業スピリット(第2回) 】 〜用(よう)の巻〜

 一般用医薬品の使用を支える現代の薬売り (「企業診断ニュース」2010年3月号掲載)

1.富山の薬売りを取り巻く法制度

(1) 薬事法制と時代の変わり目

 富山の薬売りは、薬事法に規定されるれっきとした医薬品販売業である。薬事法の第25条では、店舗販売業・配置販売業・卸売販売業という3種類の販売業を規定している。富山に限らず置き薬の商法を行なう事業者は、配置販売業の許可を得て事業を行なっている。


 富山藩二代藩主の前田正甫(まさとし)の時代にさかのぼること300年以上の歴史をもつ富山の薬売りであるが、時代の変わり目には制度上存亡の危機に瀕することもあった。


 ひとつは、明治維新で生まれた新政府による売薬規制である。西洋志向の医療・医薬制度の確立を考えていた明治政府にとって、旧来の商法である薬売りは意義を認めがたいものだった。例えば課税の面では、顧客が実際に薬を使った分だけの代金をいただく商法にもかかわらず、使用の有無にかかわらず薬剤ひとつひとつに印紙税を納める制度が長らく行なわれて事業者を苦しめた。


 もうひとつは、第2次世界大戦直後のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による占領政策である。戦時立法として成立していた旧薬事法を見直す際に、置き薬を因習的商法として、その法的位置づけについて厚生省(当時)と対立した。要するに、安全性の確保に欠ける配置販売を禁止し、薬は薬剤師のいる店舗のみで販売するべきとの主張である。最終的には置き薬の意義が認められ、1948年に施行された改正薬事法の中で、配置販売業は薬局や薬店と並ぶ薬の販売業として明確に位置づけられることになった。

(2) 2009年の薬事法改正

 時代の変わり目という点では、今年度は間違いなく5本の指に入る。2009年6月、一般用医薬品の販売方法を大きく変える改正薬事法が本格的に施行された。月刊「企業診断」のTOPICS欄でも、2009年6月号から3か月連続で薬事法絡みの話題が取り上げられた。


 「一般用医薬品」とは、一般人が自覚症状に基づいて自らの判断で購入できる薬である。典型的にはドラッグストアの店頭に並ぶ風邪薬など、処方箋不要の市販薬である。配置販売業で扱う薬もこちらに該当する。それに対して「医療用医薬品」とは、医療機関の医師や歯科医師の診断で処方される薬を意味する。病院内で用いられる薬や、処方箋を得て薬局で購入する薬がこちらである。


 一般用医薬品は、副作用などのリスクの程度に応じて第1類から第3類までの3段階に区分され、それぞれの区分で販売方法や対応する専門家が規定されることになった。すなわち、最もリスクが高い第1類医薬品については、厚生労働省令で定める事項について、薬剤師が書面を用いて情報提供することが義務づけられている。第2類医薬品の情報提供は努力義務であり、第3類医薬品の情報提供は特に規定されていない。ただしいずれの区分においても、医薬品の購入者から相談があった場合、専門家が相談に応じる義務がある。そのほか、薬の外箱に区分を表示することや、区分ごとに薬を陳列することなどが規定された。


 第2類と第3類医薬品の相談に応じることができる「登録販売者」は、今回新設された資格制度である。1年間の実務経験を受験資格としていて、医薬品の販売に携わってきた者にとっては専門性を証明する格好のライセンスとなっている。配置販売業に従事する者にとっても例外ではない。


リスク分類医薬品の例情報提供相談応需対応する専門家
第1類医薬品抗アレルギー薬義務(書面)義務薬剤師
第2類医薬品風邪薬・解熱鎮痛薬努力義務義務薬剤師または登録販売者
第3類医薬品ビタミン剤・整腸薬規定なし義務薬剤師または登録販売者

 明治政府やGHQによる薬事法制は、どちらかというと置き薬を目の敵にするものだった。それでは今回の法改正はどうか。決して“売薬さんいじめ”の政策ではなく、時代に即した外部環境の変化と捉えるべきだろう。医療費の抑制とセルフ・メディケーション(自己治療)の推進という大きな流れの中で、事業機会と考えることができる。


 改正薬事法には経過措置があって、既存の配置販売業者(法人を含む)は特に期限を定めることなく従来どおりの業務を続けることができる。つまり、登録販売者の資格を取らなくても、従来どおりの(配置販売向けに指定される限られた品目であるが)医薬品を扱うことができる。一方で、改正薬事法に基づく配置販売業の許可を得ることで、登録販売者による相談体制を整えることなどの負担が生じる反面、店舗並みの品目の医薬品を扱うことができる。


 一般的には、改正薬事法に対応する方が、消費者の利便性のみならず安心・安全という点からも顧客の利益に適う。なお改正薬事法と配置販売業については、富山市にある家庭薬新聞社が、全都道府県での許可申請手続きに対応した解説書を発行している。

2.置き薬のサプリ

(1) 売薬起業家

 改正薬事法への対応という点では、受験資格をもった数十名の社員が全員登録販売者の資格を取得済みという、お手本のような配置販売業の会社があるので、ぜひ紹介したい。富山市に本社のある株式会社サプリである。


 社長の八橋謙二氏は、18年間の会社員生活を経て、1998年に富山市で有限会社サプリを創業した。高齢化が進み従事者が漸減している配置販売業界において、売薬起業家とも言うべき八橋氏の試みは異例のことだった。消費者の方々と直接向かい合って販売できる配置販売業の強みに着目して、成功を確信したという。


 当初は富山県内を営業区域としていたが、2001年には株式会社へ組織変更するとともに、金沢市に営業所を設けて石川県に進出した。2006年には福井県への進出も果たして、翌年には福井市に営業所を設けている。この間売上高は順調に成長を続けた。従業員も2010年1月現在で50名(男性44名・女性6名)を数える。


 当社の営業区域である富山・石川・福井の北陸3県では、テレビコマーシャルなどによって「置き薬のサプリ」として認知されているが、全国的にはほとんど知られていないと思われる。また富山の薬売りについては、地元の新聞・雑誌などで特集記事が組まれることがよくあるのだが、当社はあまりご縁がない。例えば北日本新聞(富山の地方紙)の「越中流・先用後利はいま」や読売新聞富山版の「北陸人国記・くすりびと」といった連載記事(いずれもウェブ版あり)は質・量とも充実しているが、どういうわけか当社は登場しない。業界では新参者であることに加えて、改正薬事法への対応など取り組みが先鋭的であることが、かえって扱いづらいのかもしれない。会社を見学に訪れる同業者なども少なくないそうだが、配置販売業としての徹底ぶりに舌を巻き、とても真似できないと恐縮されることもしばしばあると伺った。

(2) 会社の強み

 八橋社長によると、株式会社サプリの強みは3要素に集約できるという。すなわち、「会社の信頼」「社員の信頼」「商品の信頼」である。また、富山の薬売りの「先用後利(せんようこうり)」の基本理念に忠実であることを、何よりも大切にしているとおっしゃる。


 会社の信頼は、社是「明るく楽しく元気よく」に基づいて、北陸3県で一番の置き薬の会社になるという目標を掲げて日々行動することから生まれている。改正薬事法に基づく配置販売業への移行はもちろん、従来から薬剤師が常勤して顧客からの相談に応じていること、健康情報誌「からだくらぶ」を年4回作成して顧客に配布していることも、信頼の獲得につながっている。そのほか、殺風景な流通団地にあって、青い外壁のおしゃれな社屋を保有していることも強みであるという。


 社員の信頼は、社員向けの工夫と顧客向けの工夫の二本立てでなっている。社員向けの工夫としては、社員第一主義を以て社員が誇りをもてる職場環境をつくること、研修や勉強会を充実すること、などがある。顧客向けの工夫としては、登録販売者資格の取得を通じて資質を向上すること、原則的に同じ担当社員が3か月に一度訪問し続けること、薬箱に担当社員の似顔絵入りの名刺を掲げること、などがある。


 商品の信頼は、効き目が優れた薬を提供することにある。多少高くても厳選された薬を配置することを基本方針としている。効き目が優れていることを“おいしい薬”と比喩的に表現し、そのような“おいしい薬”が求められる時代が来たと考えている。

3.先用後利とは

 株式会社サプリが大切にする「先用後利」について、いま一度考えてみたい。この点、先義後利という言葉があって、商人の心構えを表わす四字熟語としてよく用いられる。中国の儒学者荀子の「義を先にして利を後にする者は栄える」から来ている。「義」はどちらかというと抽象的であり、「用」は具体的である。つまり先用後利という言葉は、薬の使用という即物的な事柄と結びついている。


 先用後利について、後払いという事実だけに注目すると本質を見誤る。置き薬の商法の特徴を漏れなく抽出しなければならない。そもそも置き薬は、「薬箱を顧客の家に預ける」「顧客が実際に薬を使った分だけの代金をいただく」という二段構えのビジネスモデルである。それに対応して、先用後利の「用」は広狭ふたつの意味をもっている。


 広義の「用」は、薬の継続的な供用である。つまり、薬箱を顧客の家に預けることで、顧客はいつでも薬を使える状態にあることを指す。それに対して狭義の「用」は、薬の使用すなわち顧客が実際に薬を使うことである。そして薬の使用に支払いが対応することから、狭義の「用」と「利」との対応関係が得られる。まとめると「先用後利」とは、広義の「用」(薬の継続的な供用)が存在し、なおかつ「利」(支払い)が狭義の「用」(薬の使用)に対応していることである。


 継続的な供用が存在しない、単なる代金の後払いでは先用後利とは言えない。また、支払いが個別の使用事実と対応していないもの(テレビの受信料など)や、個別の使用事実に対する支払いが存在しないもの(公立図書館など)も、先用後利には当たらない。


 先用後利


 役務が継続的に供用されていて、おおむね支払いが個別の利用事実と対応しているものといえば、電気・水道・電話・鉄道などのインフラストラクチャーの特徴にほかならない。富山の薬売りがもともと地域の保健・医療の基盤としての役割を担っていたことから得られた特徴である。そしてこのような社会基盤においては、いつでも使える状態にあることが大切であって、先行するべきはそのような役務の供用すなわち広義の「用」である。一方で使用と支払いの先後関係については、例えば都市部の鉄道を参照すると、ICカードによる支払いや携帯電話と組み合わせた支払いなど形態はさまざまであって、乗車に対する運賃の支払いの先後は本質的な事柄でないことが窺える。


 薬の配置販売業においてしばしば言及されるのは、後払いで確実に代金が回収されることを以て、顧客の信頼の表われとする考えである。もちろん代金回収なくしてビジネスは成立しないのであるが、継続的に供用される役務に対する信頼があってこそ生まれる顧客の使用と支払いであることを忘れてはならない。株式会社サプリの成功の鍵は、そのような顧客の信頼の賜物と考えられよう。

【 富山の薬売りに学ぶ事業スピリット(第3回) 】 〜後(こう)の巻〜

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